生物学

ウイルスより小さい生物「ウイロイド」【植物感染症】

Norden

まず初めに、混同されがちなウイルスと細菌類、真菌類はそれぞれ全く違う生物で、細菌類と真菌類は細胞を持つ正真正銘の生物である反面、ウイルスは生物の最小単位である細胞を持たず、DNAまたはRNAをタンパク質でできた殻で覆った生物です。(学者によっては「生物の定義」に当てはめて生物とは言わず、半生物若しくは物質であると定義するそうです。)ですので、自分で増殖することはできず、他の生物の細胞の力を借りて(細胞を乗っ取って)増殖します。ゲノム数は細胞を持つ生物より少なく(ゲノム数の多いウイルスはゲノム数が極端に少ない細菌類より多くのゲノム数を持ちますが…)、もっとも単純かつ小さな生物として紹介されることも多いです。

しかしながら、そのウイルスよりよっぽど単純で小さい生物?は存在します。「ウイロイド(Viroid)」です。

ウイロイドはウイルスが持つタンパク質の殻を持たない、短い環状のRNAから構成されます。そう、丸裸のRNAなのです。その短い環状RNAはタンパク質の設計図を持たないため、タンパク質ではなく、アミノ酸を設計することになります。

ウイロイドはウイルスと同じく、他の生物の細胞を利用(乗っ取って)して増殖することになります。特に植物の細胞に寄生して増殖することから、植物病原体として知られ、特に農家の人に広く認知される病原体です。発見されたウイロイドのうち、28種が双子葉植物に、残り2種が単子葉植物に感染することが確認されています

ウイロイドはタンパク質をコードする遺伝子を持たないものの、宿主植物の細胞内に入り込むと独立して複製を行います。複製の場所や過程は種類によって異なり、例えば、細胞核の中で複製するものや、葉緑体内で複製するものが存在します。(詳しい解説をするとすごい長くなってしまうので割愛させていただきます。)

先ほど細胞を乗っ取って増殖すると書きましたが、一つの細胞を殺し、そして細胞を破壊して出て行ってはまた新たな家を探すーといった家庭ではなく、原形質連絡を通って隣接する細胞に直接移動して隣接する細胞をも乗っ取っていきます。もちろん茎を経由して他の細胞に感染することも可能です。さらにこのウイロイドは、花粉と胚珠にも入るこむことが可能であり、そこから種子が発芽すると、新たに出現した植物も感染の犠牲になります。

ウイロイドは、挿し木や汚染された器具、汚染された昆虫、感染した植物との接触など、様々な要因によって感染が広がります。植物のウイロイド病の一般的な症状には、成長の阻害、葉や果実の変形、茎の壊死、そして最後に植物の死が含まれます。

植物以外に感染するウイロイドの例は確認されていませんが、ヒトやその他の生物にとって無関係ではありません。このウイロイドは果物や農作物を殺してしまいます。ウイロイド感染症による経済的損失は深刻なものとなることが多く、植物に感染するウイルスと同様に農家に恐れられている伝染病でもあります。感染の予防策としては、1〜5%の次亜塩素酸ナトリウム、6%の過酸化水素、2%のホルムアルデヒドなどのさまざまな化学物質を植物内に循環させ、ウイロイドを殺すといった方法がとられているそうです。

余談:D型肝炎ウイルスがウイロイドと紹介されることもありますが(とある医師のツイートによる)、ウイロイドではなく、欠損ウイルスと呼ばれるものです。

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